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映画『接吻』

せぷうう


『接吻』
(2006年、日本、108分)

監督:万田邦敏
脚本:万田邦敏、万田珠実
プロデューサー:仙頭武則
ラインプロデューサー:佐藤公美
音楽:長島寛幸
撮影:渡部眞
録音:臼井勝
美術:清水剛
照明:和田雄二
出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎

孤独な日々に過ごすOLの遠藤京子(小池栄子)はある日、テレビに映し出された坂口秋生(豊川悦司)の笑顔に釘付けになる。一家惨殺事件の犯人として、坂口が警察に逮捕される瞬間の笑顔だった。この人は自分と同じ人間だ。そう確信した京子は、取り憑かれたように坂口に関する資料を収集し、裁判の傍聴に通い始める‥。

1.

この妙な映画について、何を言ったらいいんでしょうか‥。言うことがたくさんある気もするし、何もない気もする。とりあえず、たいしたプランもなくアタマからこの映画について触れだしてみて、この映画が突然ブツリと終幕を迎えるのをマネて、無造作に終わってみたいと思います。

2.

この映画を制作した会社はランブルフィッシュであると告げる、これ見よがしで騒々しく忌々しい、カンに障るアニメーションが鎮まったあと、素っ気なく『接吻』本編がはじまる。急な石段をのぼってゆく男の後ろ姿が、アメリカンビスタの横長の、しまらない微妙な画面上にペッタリと扁平に張りつき、ゆっくりと動いてゆく。男の尻ポケットからは、金槌の柄らしき棒状の物体が飛びだしている。石段をのぼりきると男/豊川悦司は、はっきりしない天候の空の下、何の変哲もない風貌の閑静な住宅街を一歩一歩あるいてゆく。

男の“歩み”の、夢魔的な感覚に、“8ミリ感”がある。(万田邦敏が8ミリ時代に、数々の名作を残したという事実からの連想などでなく、ただ、)豊川悦司の、夢のなかのような水のなかのような、息苦しい微妙な“歩み”に、8ミリ感、夢魔的な感覚を、感じたのでした。自主制作8ミリ的な撮影/映写/観賞体験における登場人物の立ち振る舞いには、通常の商業映画とはちがう、ただそれだけ、という即物感がある。歩くこと/振りかえること/見つめることといった〈身振り〉のひとつひとつ、いちいちが、唯物論的でありつつ、かつ、意味で重く撓む。〈歩くこと〉が、〈歩くこと〉というアクションであることを強調され、同時に〈歩くこと〉が前後のカットとの繋がりのなかで意味をもって存在することが常に意識化される。人物の動作の無意味と有意味とが、同時にその存在にまとわりつき、その動きに不可思議な夢魔性を付与する。豊川悦司の歩みは、そのように複数のコノテーションをはらむように感じさせながら、そのじつ、端的で、唯物論的なモノとしてしか、そこには、ない。
そのようなある種の矛盾を孕んだあり方は、『接吻』という映画の魅惑とそして語りづらさをあらわしているようにも感じられます。豊川悦司や小池栄子の人物ありようは、他者性を徹底した描写ゆえのものであって、上記のような感触も、他者性が表象としてあらわれたものだと簡単に言えるのかもしれませんが、それだけで説明がつかなそうなところが『接吻』には確かにあって、『接吻』が『Unloved』と異なる種類の困惑を観客に与える要因でもありましょう。

3.

その、幾分不気味で不穏な“かんじ”を、8ミリ感だとか夢魔的だとかとりあえずここでは呼んだのでしたが、その“かんじ”は『接吻』にも『Unloved』にもあった。しかし、ショットとショットが連なり、(その間にある動作や言葉の)無意味と有意味が厳密に連鎖し一本の映画として結晶してゆく、その(シネフィル的な意味での)“シネマ感”が『Unloved』にはあり、そこには新鮮な驚愕とともにある種の既視感と安心があり、「ショットの厳密さ」がどうの「映画的」がどうとか言っていれば済みそうな落としどころが無くもなかったと、今にしておもう。
『Unloved』では、その不穏さの/映画的魅惑の/張りつめた語りの、起因するモノとしてそういった要素(ショットの厳密さ等)を意匠→効果→演出として私達は納得しえていたのかもしれませんが、『接吻』における、語りの透明さや、構図の厳密でなさ等からは、もはや“凄さ”や夢魔感の根源を演出や画面設計に安易に求めることの危うさを示しているように思えてくる。純粋な階級闘争の物語として硬質な強度を誇った『Unloved』の感触があくまで作家的なものに起因するものとして感じられたのに対し、ごく普通の演出に思われる『接吻』でのそれは、結局京子/小池栄子や坂口/豊川悦司の人間個体そのものに起因しているように感じられます。

『Unloved』という映画は、独自の感性と思考を生きる、共感することの限りなく困難なひとりの女性がおのれの“愛のかたち”を貫き通すさまを異様なテンションで描いた映画だと、ひとまず表現することも出来るとおもいます。
ここで言う「異様なテンション」とは、例えば『トレインスポッティング』だとか、三池崇史のある種の映画とか、いかにもで予定調和な“カウンターカルチャー然”とした映画に付随する(気持ちのよい)「異様なテンション」ではなく、われわれ観客の様々な快楽原則に寄り添わぬ「異様さ」であって、映画を観ようというわれわれ観客の動機や気持ちに奉仕しない、よく分からないが不可視の存在意義ノヨウナモノが、私たちの見えないどこかで蠢いているようなのだった。そのようにして、何か私たちのあずかり知らぬ原理で進行してゆくと思しき『Unloved』においては、「他者性」としての「人間・関係」が描かれるとともに「他者性」そのものとしての「映画」が顕れてくる。露骨な三角関係、図式的な貧富の格差、合致せぬ人生観をもつ他者との相容れぬ闘争が非・融合、反・和解的に繰り広げられ、そこで飛び交う「言葉」は言外の意味を含んだりしない非・ニュアンス的な言葉として、硬質な物体として唯物論的なブラウン運動を繰り広げていた。その運動体そのものとしてあった『Unloved』の魅惑に比べて、『接吻』のそれは慎ましやかな物語映画の顔
をしているように見えますし、前より上手くなったんだか下手になったんだかよく分からないのも『接吻』の面白さのひとつですが、「他者性」の導入の水準が変化した結果、息遣い荒くそして静かに進行する『接吻』には、活劇の匂いがより強く漂う。ゴダール的活劇からイーストウッド的活劇へ、と言えば口当たりはいいけど、果たしてどうか(透明であろうとする意志有り)。ただ、「アート系映画」的な安心感から、普通の映画、としての不穏さに一歩踏み出したかんじはじつにあって、『接吻』のラストのあっけらかんとした切れ味には、通俗の良さが確かにあった。

編集やら映像処理やら構図などに宿った意志が前景にせり出してくるようだった『Unloved』にあった「他者性」は、それこそ用意されて差し出された「他者性」として、我々は内輪の言葉のようにツーカーで授受し、自閉していっただけなのかも知れません。
それらが後退していったとき、『接吻』にあったのは万田夫妻の自我の顕現でもシネフィルへの目配せでもなく、ただ、瞳を見開き、じっとどこかを見つめる小池栄子の存在の、圧倒的な豊かさ。声の響き。その佇まい。ピンとあがった眉尻から凛とした孤高な気配が立ちのぼり、その、何ということもない身振り、言葉のひとつひとつが、かけがえのない、この世にひとつしかないモノやコトとして一瞬一瞬に小さく眩しくきらめき、消えてゆく。その束の間のまどろみの、胸を締め付けられるような切なさは、至福と絶望を同時に体感させますが、そのようなことは、京子/小池栄子にとっては、預かり知らぬどうでもいいこと。彼女はただそこに存在し、ある決断を不断にくだしつづけ、その連鎖が彼女の生き様となって立ち現れてくる。観客はそれを息をのんで見つめ、見守りつづけるだけ。彼女が波及させる行動や言動の印象から純粋な愛を感じようと恐怖を感じようと、それは硬直したカテゴライズに逃げたい観る側の怠惰な精神の動きに過ぎなくて、彼女は死刑囚・坂口/豊川悦司との、名付けがたい関係をただ淡々と、それこそ、生きるように、生きている。
この映画内では、京子ー坂口ー長谷川(仲村トオル)の関係をめぐる多くの言葉が費やされてゆきますが、それでもその関係は定義されて安定した構図に定着してゆかない。言葉に深読みすべき深遠などなくただ言葉は言葉として硬質に存在しているように、その言葉によって人間たちもその存在を定義されたり解釈解読されたりせず、ただそこにそのように在るモノとして関係という不定形の流動体が浮遊している。他者としての〈言葉〉、にとっても他者性としてある〈コト/モノ〉、にとって他者としてある〈関係〉。すべては解読不能で、唐突で、必然。そこには気負いも装飾もなくて、ただ不意打ちとして観客を襲う。

theme : 日本映画
genre : 映画

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